インタビュー

第1回 福田直樹さん (ピアニスト)

プロフィール [さらに詳しく]

1960年東京生まれ。桐朋高等学校音楽科、桐朋学園大学、シュトゥットガルト国立芸大、ウィーン・コンセルヴァトアールに学ぶ。
ヴィオッティ国際ピアノコンクール、ディプロマ賞。ウィーン・ベーゼンドルファー賞。ポルトー国際コンクール第3位、並びに最優秀現代音楽賞。エンナ国際コンクール第5位。ウィーン市より2年連続特別奨励(ピアノ部門1名)NHK教育テレビ『ピアノでモーツァルトを』、NHK-FM『ベスト・オブ・クラシック』『土曜リサイタル』等に出演。NHK大河ドラマ『花の乱』テーマ曲演奏。

今回のお話は、4月24日に開催された、ひこね音楽夜話「クラシック事始」第一話の楽屋でインタビューさせていただきました。

———ひこね音楽夜話「クラシック事始」第一話について少しお話をお願いします。
 
約300年前、ピアノはイタリアで開発され、ちょうど、モーツァルトやベートーヴェンの頃に広まっていきました。一口にピアノと言っても、300年分の歴史があり、様々な音色があります。見た目はチェンバロとそっくりなピアノというのもあります。第一話では、それぞれの音色の違いに気付いてもらえるような内容になっています。
これまでピアノを使って何度も講演をしてきました。今回の「クラシック事始」では映像も使い、より分かり易くお伝えできるように構成しています。

ベーゼンドルファーのピアノ

———ピアノにもいくつか種類があって、それぞれ違うのでしょうか?
 
ドイツの名器ベーゼンドルファーは、古典の流れを汲んでいます。同じピアノでも、たとえば、現在、一番ポピュラーなアメリカのスタインウェイと比べると、ベーゼンドルファーはかなりウィーン風の流れをくんだ音色がします。重厚な感じでしょうか。弾き手にとってもかなりエネルギーがいるピアノです。ベートーベンの楽曲は、ベーゼンドルファーで弾いたほうがしっくりきます。


———今回、どうしてピアノをテーマに選ばれたのですか?
 
新しい楽器が生み出されると、それに呼応して新しい楽曲が生み出されてきました。どういうメカニズムで楽器が出来、どういう曲が出来てきたのかを知ることは、クラシックを楽しく聴くきっかけになります。また、あらゆる作曲家がピアノを使って曲を作ります。オーケストラの曲でも、全てのパートをまずピアノで作るんです。全ての音域をカバーしているのがピアノ。ピアノを知ることで、クラシックに限らず、あらゆる音楽をより楽しめるようになると思います。

チェンバロ

———楽器として、ピアノの魅力とはどこにあるのでしょうか?

ピアノの発明と進化は、それまでになかった音域を演奏することが可能にしました。そのことによって、人の声の音域も広がっていきます。歌曲などもピアノ共に進化します。言い替えれば、チェンバロ時代には出せなかった人の音域が、ピアノが音域を広げたことで求められるようになり、人もそれにあわせて進化したことになります。人の声にまで影響するくらい、ピアノはその時代の意味を持つ楽器なのです。


———クラシックは敷居が高いと思われがちですが、本当にそうなのでしょうか?

私はクラシックほど敷居が低い音楽はないと思っています。テレビなどで一番よく耳にしているのはクラシックを元にしたメロディーなんですよ。とても有名なCMの音楽が、チェンバロ時代にバッハが作曲したものだったことなどはよくあります。また、どの音楽のコンサートよりクラシックのチケットが一番入手し易いのも事実ですし、クラシックの奏者には何処でも気楽に会うことが出来ます。他のジャンルではそうはいきません。どこかで制限がかかってしまう。一番身近に転がっていて、親しみやすいのがクラシックです。それがいつの時代に作られたものかを知ることで、クラシック音楽をより身近に感じてもらいたいと考えています。


———クラシックと現代の音楽の楽しみ方に違いはありますか?

現代の音楽はすべてクラシック音楽の規則性を元にしています。音楽的な技術はハイドンやモーツァルト当時と変化していません。ベートーヴェンやショパンのハーモニーの上をいく楽曲は現代にはありません。そう考えると、今の音楽は幼稚なのかもしれません。特に、日本の曲は、今から200年くらい前の技術で全部かけてしまいます。ニューミュージックは使い古された音楽の退化している部分。フォークがまだ少し新しい感じです。オシャレな曲の多いJAZZでも、今から100年位前のドビュッシーと同じくらい。音楽は12の音の組み合わせで作られています。12個しかないので、新しい音楽を作るのは難しいですね。
昔は響きがメインで今は言葉がメインですから、時代によって人の志向が違うのは仕方がないと思います。


———今回の「クラシック事始」を聴いて、クラシックに関心を持ち、もっと楽しみたいと思ったとき、さらに一歩踏み出すためのお勧めの作曲家や楽曲はありますか?
 
今日聴いていただく曲の中で、気に入った作曲家がいれば、他の作品を聴いてみるのが面白いのではないでしょうか。私は個人的には、バッハが好きです。全ての音楽の基本はバッハ。全ての作曲家がバッハを勉強し、自作の原点にしています。一番基本的な作曲家なのに、バッハは音楽の中でもかなり難しい。一筋縄ではいかない作曲家です。そこがまた素晴らしいんですけれど。


———クラシックから学ぶ、音楽の楽しみ方とはなんでしょう?

音楽家としてお話しますと、音楽の一番の楽しみは音色。それはどのジャンルについてもいえます。たくさんの有名な曲を聴いてもらって、そのなかに音色が「きれいだな」と思う一瞬があれば、それで最高です。その“ハッとする瞬間”を楽しむことがクラシックだけでなく、あらゆる音楽の新しい楽しみ方になります。たとえば、カラオケに行って、ただ、賑やかに歌うだけではなく、自分の音色のきれいな部分を聴いてもらいたいと思うようになると音楽を楽しんでいると思いますね。音楽を楽しんでいる人のクォリティ、音色などの部分に、大切に耳を傾けてもらいたいです。

———次回、6月12日に開催される第二話の聴きどころを教えていただけますか?

第二話は室内楽の面白さをテーマにしています。ピアノは弾き手の「ヴィルトーゾ(名人芸)」が注目されますが、室内楽はいろいろな音を合わせるアンサンブルが醍醐味となります。アンサンブルの基礎は弦楽四重奏で、それを大成させたハイドンと同時代を生きたモーツァルトとブラームスから弦楽器が奏でる室内楽の楽しさをお伝えします。「ヴィルトーゾ」と「アンサンブル」の楽しさがわかると、普段から耳にする音楽がより楽しくなってくると思います。


ひこね音楽夜話「クラシック事始」第2話 よーいハイドン!もっとモーツァルト だからブラームス